褒めちぎられて恐縮してしまった私だったけれど、頑張りが認められたようで素直に嬉しさがこみ上げる。

 私もひと口齧ってみた。うん、柔らかさといい、焼き加減といい、我ながらうまくできたと思う。これならば、他人に召し上がっていただくには申し分ない出来だと思う。

 ――だけど。


「――貴子」


 おばあさんは無反応だった。おじいさんが寂しそうに声をかけるも、ぴくりとも動かない。

 彼女に食べてもらわないと、意味がないのに。どうにかして、このチョコチップマフィンを食べてもらって何らかの反応をしてはくれないかな……。

 私は食べるのをやめて、じっとふたりを見た。すでに食べ終わっていた紫月も(早すぎない?)、真剣な面持ちで彼らを見つめている。

 しばらくの間、おじいさんは無反応のおばあさんに寂しそうな表情をしていた。――しかし。


「ほら、貴子。おいしいマフィンだ。一緒に食べよう」


 マフィンを半分に割って、おばあさんの顔の前に差し出した。優し気に、愛しそうに彼女を見つめながら。

 ――すると。


「あら、いい匂い」


 虚ろだったおばあさんの瞳に、光が宿ったように見えたかと思ったら、彼女ははっきりとそう言ったのだ。そしておじいさんの手から、すぐにチョコチップマフィンを受け取り、大きく口を開けてかじりついた。


「貴子……!」


 おじいさんは、信じがたいというような表情で妻を見つめている。彼女はどこ吹く風で、満足げに微笑みながらマフィンを咀嚼し、ごくりと飲み込んだ。


「本当ね。おいしいわ」

「そ、そうか! よかった!」

「あなたは食べないの?」