鍋やフライパンなど、どこの家庭でもある調理器具はもちろん揃っていた。しかしそれに加えて、ケーキの型や高性能の電動泡だて器、クッキー型など、お菓子作りに必要な物も一通り揃えられていた。

 おばあさんはどうやら、お菓子作りが趣味だったらしい。先ほどの本人の言葉にも「バター」「ビターチョコ」なんていう、お菓子に使う材料が含まれていたし。

 キッチンの小さな引き出しを開けると、紙のカップケーキ型が大量に入っていた。日常的に頻繁にお菓子を使っていたのだろう。

 ――待てよ。

 バターにビターチョコ、そしてカップケーキの型……。


「もしかして……。奥様はチョコチップマフィンをよく作っていませんでしたか⁉」


 おばあさんが言った材料とカップケーキの型の個数から想像すれば、それが思い当たった。


「チョコ……マフィン……? 申し訳ないけれど、私はお菓子に疎くてねえ。横文字は覚えにくいし」


 ……はっ! そうだった、おじいさんは料理についてあまり知識がなかったんだった。


「えーと、それなら。おばあさんがよく作っていたお菓子、どんな物でしたか?」

「ああ。丸くてふわっとしたスポンジに、細かいチョコレートが入った小さなケーキをよく焼いていたな。私がチョコレートが甘すぎなくておいしいなと言ったら、毎日のように作ってくれてねえ」


 しみじみとおじいさんは言う。きっとおばあさんの味を思い出しているのだろう。しかし、これで私は確信が持てた。


「それですよ! それがチョコチップマフィンです!」