「え?」

「実は私、昨日チーズケーキを焼いて寝かせていたんです。大叔父さんに教わったレシピで作っているので、味はほとんど同じではないかと……。技術は劣ると思いますけどね。もしよかったら、お召し上がりになりませんか?」

「いいのか? ぜひいただきたい!」


 彼は目をパッと輝かせた。その無邪気な様子に、母性本能をくすぐられる。私より結構年上だろうし、顔だけ見たら近寄りがたさすら覚えるほどの美形だというのに。


「よかったです。ホールで焼いてしまったのでひとりじゃ食べきれなさそうだったので……。紅茶もお淹れいたしますね」


 そう告げて、居間からキッチンに移動する私。大叔父さんと住んでいたこの家は、築五十年は経っている日本家屋だ。あちこちガタが来ていて床や柱は傷だらけ。キッチンにも昔ながらの給湯器がついている。

 しかし慣れてしまえばたいした不便ではない。というか、年齢が一桁の頃からこの家に住んでいる私は、すでにこの家が生活の基準になっているため、これより便利な生活を知らなかった。

 紅茶の準備をし、音のうるさい冷蔵庫から昨日焼いて寝かせておいたチーズケーキを取り出す。久しぶりの甘味作りだった。よく考えてみれば、大叔父さんが亡くなってから初めてだったかもしれない。

 昨日は雨で、一日中どんよりとした曇天だった。なんだか無性に寂しい気持ちになったんだ。それで、冷蔵庫にあった材料でできるチーズケーキを、寂寥感を紛らわすために作ったのだった。