私は玄関のドアノブに手をかける。鍵がかかっていなかったので、そのまま紫月と一緒に家の中に入る。家の奥から「貴子、大丈夫だ、大丈夫」とおじいさんの声が聞こえてきた。


「すみません! 大丈夫ですか⁉」


 大きく声を張り上げながら、奥へと進んでいく私。紫月は私の後についてきた。

 おじいさんとおばあさんはキッチンの前の床にいた。転んでしまったらしいおばあさんを、おじいさんが起こそうとしているらしかった。なぜかおばあさんは、製菓用のふるいを持っている。

 おじいさんは、私の顔を見て驚いたような顔をする。


「……! 君は、昨日の子だね?」

「はい! 通りすがりに大きな音が聞こえて、何か危険なことがあったのではないかと……。すみません、勝手に入ってしまって」

「いやいや。こんなおいぼれを心配してくれてありがとうね」

「あの、大丈夫でしょうか?」

「ああ。妻が転んでしまったのだが、怪我はしていないようだ。大丈夫だよ」


 そうだったんだ。体が弱っている高齢者は、転倒による打撲や骨折が多いと聞いたことがあるけれど。怪我をしていないようなら、よかった。

 その後、おじいさん、私、紫月は三人で協力しておばあさんをダイニングテーブルの椅子に座らせた。彼女は「あら、ありがとうねお嬢さん」と私には言ってくれたけど、おじいさんには何言わず、少し切ない気持ちになった。


「助かりました。ひとりだと、起こすのも大変で……。ありがとうね」