あれ、でもそうすると紫月ともし本当に結婚してしまったら、私はずっとその夜羽さんっていう山の神に狙われ続けるってことなのでは?

 婚約者(嘘だけど)とのたまっている今の段階でも襲われたのだ。一刻も早く、対外的に婚約を解消して彼の元から去った方がいいような……。

 と思った私だったけれど、紫月のもとを去ったところで行くあても先立つものもない。大叔父さんの家は、あの親戚たちに好きなようにされているだろうし。

 やはり、潮月神社で仕事をしてひとりだちできる準備をした方が、今後のことを考えると最善だろう。

 そう結論付けた後、紫月に助けてもらったお礼を言っていなかったことを思い出して、はっとする。


「紫月……。ありがとう。私が話も聞かずに勝手に飛び出したのに、助けに来てくれて」


 そう言うと、紫月は穏やかな笑みを浮かべた。


「なに。愛する婚約者を助けるのは当たり前のことだろう?」


 歯の浮くようなセリフを、相変わらず平然と言う。気恥ずかしくなって、思わず私は俯いてしまう。

 本当に、なんでこの人は私のことを愛しているのだろう。こちとら全く心当たりがないというのに。


「それはさておき。君に言われたことを、俺はずっと考えていたのだ」

「え……? もしかして、参拝に来たおじいさんのこと?」

「そうだ。なんで陽葵があそこまで彼に感情移入するのか疑問だったが、人間とは感覚が違うことを忘れていたよ。申し訳なかったな、あの老人の願いをおざなりにしてしまって」

「感覚が違う? どういうこと?」