胸の苦しさが幾分が落ち着いた後、私は顔を上げた。紫月が悲痛そうな顔をして、私を見ている。


「大丈夫か! 陽葵!」

「な、なんとか……」


 首を絞められていたのはごく短い時間であったためか、これ以上体への影響はなさそうだった。

 しかし、一体なんで私は何かに襲われたのだろう? 夜羽さまだかなんだかって言っていたけれど、そんな名前知らないし……。

 そう思った私だったが、少し離れた虚空に黒い人型の靄のようなものが浮かんでいるのが見えて、息を呑む。


「なんなの、あれ……」


 かすれた声を上げてしまう。あれが、私を襲ったやつなのかな?

 紫月は、黒い靄の方を眉をひそめて睨みつけていた。


「……やはり陽葵を狙いに来たか」

「え? やはりって……」

「夜羽さまのご命令のままに……。必ずや、必ずや」


 低くくぐもった声が黒い靄から聞こえたかと思ったら、それは空中に霧散するように散り、すぐに消滅してしまった。


「紫月……。一体あれは何なの? 私、なんで狙われたの? 夜羽って、誰のこと……?」


 彼の口ぶりからすると、あの黒い靄についてなんらかの心当たりがあるように思えた。それに、神社を飛び出した瞬間、彼も従者のオオカミさんも、私に「出るな」とか「危ない」と言っていた。

 今の私は、神社の敷地から出ると危険にさらされるような状況にあるってことなんだろうか?


「おいおい話そうとは思っていたのだ。まさか君がいきなり飛び出してしまうとは、思っていなくて」

「ご、ごめんなさい……」