だけど、だからこそ。だからこそ、どうしようもないこんな時だからこそ、神頼みをするしかないんじゃないの?
「……諦めないでよ」
「陽葵?」
「もうあの人は、神様にすがるしかないの! そう簡単に諦めないで! 私……私、あの人に何かできることがあるか、話を聞いてくる!」
感極まった私は、そう言い切って走る。さっきのおじいさんの背中を追って。
「待て! 陽葵! ここから出るな!」
背後から、紫月のそんな声が聞こえてきたけれど、私はそれに答えずに足を早める。
「ひ、陽葵さま!? どちらへ!? 外は危険です!」
神社の鳥居付近を清掃していたオオカミ耳の従者が、全速力で走る私に驚いたように言った。――しかし。
「ちょっとお出かけ! そんなに遠くには行きません!」
私はそれだけ言うと、迷わずに鳥居をくぐる。するとくぐった瞬間、従者の姿は消え、ピカピカで艶のあった鳥居はみすぼらしく色の禿げた門に成り下がった。
鳥居をくぐったから、紫月の力が消えて私も普通の人間になってしまったということか。そう言えば、紫月にここに連れられてから神社の敷地を出るのは初めてだ。
でも、紫月もオオカミさんも、「出るな」とか「危険です」って、一体なんなのだろう。だって私、少し前まで普通に鳥居の外で暮らしていたんだから。こんな治安のいい田舎町、何も危ないことなんてないはずだけど……。
少し気になったけれど、とりあえずおじいさんに会わなくてはと思った私は、彼の姿を探して走り続けた。
*
しばらく神社の周りをうろついていたら、おじいさんの姿を見つけた私。