「私たちは人間のように緻密に生きていないんだ。寿命も長いしな。日々をのんびりと、風や太陽の光を感じながら、まったりと過ごしているから」


 琥珀くんの言葉の意味がいまいち理解できない私だったが、紫月の説明によってなんとなく分かった。


「あ! だから、家庭料理は作れるけど、お菓子は無理……ってことか」

「さようでございます、陽葵さま」

「さすが僕の愛する妻だ。物分かりがいい。いや、天才だ」


 これしきのことで私をべた褒めしまくる紫月のことはおいといて。

 家庭料理は、材料や調味料の分量をきちんと測らなくても、慣れてしまえばぱぱっとおいしく作ることができる。

 しかし、お菓子をおいしく作るためには、一グラム単位の誤差にも気を付けなければならない。たったそれだけの違いで、味や食感は大きく左右されてしまう。火をかける時間や温度も少し間違えるだけで全然味が変わってしまうのだ。


「特に琥珀は、神の眷属の中でも適当な方でなあ。掃除や洗濯は苦手だし、朝餉の味噌汁のしょっぱさも毎日違うくらいだ。まあ、薄くても濃くてもうまいのだが」

「め、面目ありません……」


 紫月はそれほど気にしてはいないような言いぶりだったけれど、琥珀くんはシュンと項垂れてしまう。

 丁寧そうな男の子だって思ってたけど、意外に大雑把なところもあるんだなあ。でもそんなところが人間臭く思えて、親近感が湧いた。

 しかし、料理番の琥珀くんがお菓子作りが苦手となると。この神社に今、おいしいお菓子を作れる手がないということでは?


「あの。それなら代わりに私がプリンを作ろうかな?」

「えっ……。そんな、陽葵さまの手を煩わせるわけにはっ……!」