そんなことを考えていたら、紫月がすたすたと歩き出したので私はそれに続いた。玄関から屋敷内に入り、食堂らしい畳敷きの大広間へと向かった。しかし、並べられた脚付き御膳の上には、まだ何も置かれていない。


「どうやらまだできていないようだな。――はあ。今日も焦げ焦げの団子か、水っぽい洋菓子か……」


 部屋の様子を見て、ため息交じりに紫月が言う。言葉の内容から察すると、本当におやつの味には期待できそうもない。

 大叔父さんからお菓子作りの手ほどきを受けた私は、気になって仕方がない。


「あ、あの。キッチン……炊事場はどこ? 私、様子を見に行っていい?」
 
「ああ、いいだろう。俺が案内しよう」


 紫月に連れられて来た炊事場は広間のすぐ近くだった。お鍋に向かって、首を傾げている琥珀くんがいた。


「し、紫月さま、陽葵さま。申し訳ありません、もうすぐ完成しますので……」


 罰悪そうな顔をして琥珀くんが言う。その曇った表情からは、おやつの出来があまりうまくいっていないことを察せられる。


「何を作っているの?」

「黒ごまプリンですよ。紫月さまの好物なので」

「まあ……好物は好物だが」


 紫月が引きつった笑みを浮かべて言った。やっぱり、琥珀くんはおやつ作りがうまくないらしい。今までのお菓子の出来もそんなによくなかったらしいことが、紫月の表情からうかがえた。


「琥珀くん、昨日のお粥はおいしかったのに。おやつを作るのは、苦手なの?」

「……ええ、実はそうなんです。これには私たちの成り立ちが邪魔をしていまして」

「えっ。成り立ちって、どういうこと?」