なるほど、言われてみれば確かにそうだよね。神頼みをしただけで欲しい物が手に入るなんて、虫がよすぎるもの。それでも、努力が報われるような道しるべを示してくれるのは、先が見えない人間にとっては嬉しいことだけど。

 と、納得していた私だったけれど、紫月が少し屈んで私に視線を合わせて、にっこりと毒毛のない笑みを浮かべた。


「まあもちろん、陽葵の願いならなんでも叶えてやろう。秒で」

「びょ、秒でって。神様がそんなんでいいの……?」


 職権乱用もいいところである。


「自分の愛する者を特別扱いできることこそ、神様の特権だろう?」

「……意外に俗物的なんだね」


 神様のえらいえこひいき加減に、私は乾いた笑いを浮かべてしまう。そんな神様の権利を使っていただくつもりは私にはなかったし。大叔父さんがやっていたように、地に足の着いた生活を細々とできれば、私はいいのである。

 そのためにはまずはお仕事を見つけなければいけないんだけど……。


「あ、そうそう。陽葵の仕事のことなんだが」

「えっ……!」


 まさに今考えていたことを話題にされたので、息を呑む私。


「神様って、心を読めたりするの……?」

「参拝客の心は読めるけど、他はちゃんと読めるわけではない」

「えー、本当? だって今ちょうど、私仕事どうしようかなって思ったんだけど」

「愛し合っているから、心が通じ合っているんだな、俺たちは」

「……えーと、それで仕事のことって?」

 彼の迷いごとへのスルーに慣れつつある私は、仕事の話へと話題を引き戻す。

 どうやら紫月が仕事のことを話し出したのは単なる偶然……らしい。たぶん、そうだといいな。