「ははーん陽葵さま。愛する夫である紫月様に、おはようのチューをしに行くってことですニャ?」

「チュ、チューって! ち、違うから!」

「そんなに照れなくってもいいのですニャ」

「いや本当に! 神様って昼間は何してるのかなって、純粋に疑問に思っただけだから!」


 必死に弁明する私。朝からキ、キスなんて考えもしなかった。だいたい私はあの人と本当に結婚するつもりはない。第一彼のことはまだよく知らないのだ。


「にゃんだ、つまんないです」

「つ、つまんないって……」


 この猫さん、なかなか下世話な性格なのかもしれない。


「まあ、紫月さまなら神社の方にいると思いますニャ」

「神社に? 何をしに行ったの?」

「もちろん神様だから参拝客の願いを聞きに行ったのですニャ。ここは縁結びの神社なんですニャ。午前中から参拝に訪れる熱心な人間もいるのですニャ。……最近はめっきり少ないですがニャ」

「へえ……」


 神様が参拝客の願いを聞くって、一体どういう感じなんだろう? すごく気になった。


「様子を見に行ってもいいのかな?」

「紫月さまの奥方様ですから、もちろん大丈夫ですニャ! きっと紫月さまも愛する陽葵さまに一刻も早く会いたいはずですニャ」

「はは……。じゃ、じゃあ行ってくるね」


 私と紫月の仲を盛り上げようとする千代丸の言葉は適当に流しつつ、私は神社の境内の方へ向かう。

 渡り廊下を歩くと、遠くの水場でかわいらしい獣耳をはやした従者たちが、洗濯に勤しんでいるのが見えた。仄かに味噌汁の残り香がどこからか漂ってくる。少し忙しい朝の時間の、清々しい空気が漂ってくる。