「え。ここで?」
「そうだ。ここは俺の従者の数も多く、敷地も広いから。探せばきっと何か仕事があるだろう」
考えてもいなかった。だけど確かに、鳥居をくぐった瞬間にざっと見えた屋敷の外観と庭園は、かなり広大に思えた。一瞥しただけでは、全貌が把握できなかったほどに。
紫月の言う通り、広い土地でたくさんの彼の付き人がいるこの空間では、なんらかの仕事は見つかりそうだ。
「わかった。では、こちらで働けるよう、よろしくお願いします」
「だから、そんなにかしこまらなくてもいい。さっき少し眠ったとはいえ、今日はもう疲れただろう? 琥珀と千代丸が持ってくるお粥のお代わりを食べたら、ゆっくり休むんだ」
言われてみれば、体中がまだ少しだるい。卒倒した後二時間くらい睡眠をとったとはいえ、疲れは全然抜けきっていない。なぜか強い脱力感もあった。
大叔父さんがいなくなった家をひとりで守っている間、知らないうちに気を張っていたのかもしれない。
「うん、そうするね。ありがとう」
「うむ。ひとりで眠るのは寂しいだろう。俺が添い寝しようか?」
「……! 大丈夫だからっ!」
想像してしまい、さすがに赤面してしまった私。紫月は心底おかしそうに喉の奥で笑うと、「ゆっくりするんだぞ」と言って、部屋から出て行った。
――まったくもう。すぐにあやしい方向に話を持っていくんだから!
不思議と嫌悪感はまったくわかない。紫月にからかわれて生まれる感情は、気恥ずかしさばかりだった。
その後すぐに、琥珀くんと千代丸くんがお粥のお代わりを配膳してくれた。私はそれをすぐに平らげると、紫月に言われた通りに床に就いた。
目を閉じて、自分の身に置かれた状況をいろいろ考えては、「よく考えたらありえないよなあ」なんて思ったけれど、疲労困憊だった全身は、すぐに私を心地の良い睡眠へと誘ったのだった。