「あの。どちらさま、でしょうか」


 縁側から立ち上がり、おずおずと、一応丁寧に言った。きっと悪い人ではない。根拠もなく、ただの直感だが。

 すると彼は口角をわずかに上げて、ゆっくりと私の方へと近寄ってきた。近くで見ると、ますます美形っぷりが目についた。

 こんな整った容姿をしているから、一般人ではないかもしれない。芸能人とか、俳優とか、モデルとか?

 うーん。そんな感じではないな。なんだろう、もっと不思議な印象を受ける。うまく言えないけれど。


「お線香をつけに来たのだ」


 私の眼前に立った彼は、外見に似つかわしい優美で涼し気な声でそう言った。あまりの声の美しさに一瞬聞き惚れてしまう。が、すぐに私ははっとした。


「お、お線香でしたか! すみません、気が付かなくて……」

「いや。連絡もなしにいきなり来てしまったし」

「とにかく上がってください!」


 大叔父さんの死後、たまに彼の生前の知り合いが線香をあげに来ることがあった。喫茶店の常連さん、彼の若い頃の友人など、さまざまな人が訪れたが、みんな一様に大叔父さんの死を悼んでくれた。

 大好きな大叔父さんのことを死後も思ってくれる彼らを、毎回私はできるだけ丁重にもてなし、思い出話をじっくりと聞くのだった。

 神秘的な美丈夫の彼は、大叔父さんの仏壇に線香を供えて、手を合わせて拝んだ。目をつぶった彼のまつ毛の長さに驚かされる。いいなあ、とぼんやりと思った。


「なるべく早めに来たかったのだが、遅くなってしまった。来れてよかった」

「は、はい! ありがとうございます」