「紫月さんは、私のことを昔から……」

「紫月でいい。あと、よそよそしい敬語もなしだ。ここにいるのなら水臭いのはやめてくれ」

「じゃ、じゃあ紫月。紫月は私のことを昔から知っていたかもしれないけど、私にとっては昨日会ったばっかりの人で。やっぱりそんな人に、世話になり続けるわけにはいかないと思うの」

「俺はそんなことまったく気にしないが? 愛に時間など関係ないだろう」


 キリっとした決め顔を作って、息を吐くように殺し文句を言ってくる。私はいちいち自分の心臓が反応することをうっとおしく思いながらも、彼のペースにはまらないように踏ん張る。


「と、とにかく。ひとりだち出来る準備ができるまで……それまでの短い時間だけ、居候という形に。どこかでアルバイトを探すので、お金が貯まったらここを出ようと思っているので……。お願いします」


 結婚だの婚約者だのという話にはもちろんついていけないが、身寄りのない私の面倒をみてくれることには、感謝しかない。

 だから私は深く頭を下げたのだった。


「顔を上げろ、陽葵。君が俺に頭を下げる必要はない。俺が好きでやっていることなのだから」


 優しい声で紫月が言う。私はおずおずと面を上げた。


「君がそこまで言うのなら、その意思は尊重することにしよう。ある程度、資金が溜まるまでここにいたいということだな」

「う、うん!」


 紫月があっさりと了承してくれて、少しの不安を抱いていた私はほっと胸を撫でおろす。