「陽葵さまに気に入っていただけたようで嬉しいです」


 そんな私の食べっぷりを、琥珀くんは微笑んで喜んでくれた。「本当においしい! ありがとう!」と一言告げた後、私はさらに卵粥を口に運んだ。するすると胃が卵粥を受け入れていく。


「――ごちそうさまでした」


 あっという間に完食してしまった。

 誰かの手作りによる、優しい味のお粥。満たされたお腹からわき起こる幸福感。

 涙が零れてきた。悲しい雫ではない。温かい、幸せが感じられる落涙。


「あ……」

「どうしたんだ? 何か悲しいことでも……?」


 前触れもなく泣き出した私に、紫月さんが表情を曇らせて尋ねてくる。琥珀くんは一瞬で青ざめた。


「陽葵さま……! 何かお口に合わなかったでしょうか? 腹痛など起こしおりませんか?」


 自分の料理に何らかの不手際があって、私が泣いているのだと思ったらしい琥珀くん。私はぶんぶんと、首を横に振る。


「――違う。違うの。おいしくて、温かくて、嬉しくて……」


 大叔父さんが亡くなってからは、ずっと自炊をしていた。自分が作った料理は、きっとまずくはないのだろうけど、調理の段階をすべて把握しているためか、味わうというよりは、お腹を膨らますための作業になっていた。

 本当に久方ぶりだったのだ。自分以外の誰かによる、気持ちがこもった手料理を食べたのは。

 大切な人を失って、血のつながった親族に住んでいた家を追い出されそうになって。私はきっとどこかで自分の存在価値を見出せなくなっていたのだと思う。