「うわあ……」


 白い湯気が視界を覆う。次に感じたのは、白米と卵の、とても食欲をそそる匂い。土鍋の中は、溶かれた薄黄色の卵が混じった粥が、たっぷりと詰まっていた。


「とてもおいしそう! ありがとう、琥珀くん」

「とんでもございません。炊事係の僕は、紫月さまと婚約者である陽葵さまの胃袋を満足させることが仕事ですから」


 琥珀くんが炊事係ということは、今後の食事も彼が用意をしてくれるということだろう。

 私も大叔父さんのお手伝いをしていたから、料理をするのは好きだ。一緒に調理場に立てないかなあ。

 そんなことを思っていると、紫月さんがれんげを使って器に卵粥を取り分けていた。


「起きたばかりのようだが、もう食べられるのか?」

「あ、食べられま……」

「では口移しで」


 食べられます、と言おうとしたのに紫月さんが言い終わらないうちに言葉を被せてくる。余裕綽々そうな笑みを浮かべて、私を面白そうに眺めながら。

 な、何を言っているのこの人は!


「じ、自分で食べられます!」

「そうかい。それは残念だなあ」


 笑いをこらえるような顔をして、紫月さんは持っていた器とれんげを御膳の上に置いた。私は彼がまた変なことを言い出さないうちに、すぐさまそれを自分の手で取る。

 隙を見せたらすぐに私をからかうんだから、もう!

 困惑しながらも卵粥を口に放り込む。――すると。


「……! おいしい!」


 絶妙な塩加減に、程よい卵の分量。起き上がりにちょうどいいご飯の柔らかさ。

 まさに、私の体が今欲している食物だった。食欲が、私の本能が、卵粥を欲しがり、まるで掻きこむように食してしまう。