なんてことを思っていると、障子がゆっくりと開く。紫月さんと、御膳を持った従者らしい私と同い年くらいの男の子が入ってきた。

 確か、さっき千代丸くんの隣にいた、人間タイプだけど狐の耳と尻尾が生えた少年だ。とても端正な顔立ちをしていて、美少年と呼んでも差し支えない。


「陽葵! 気が付いたのか」


 目を覚ました私の姿を認めると、紫月さんは嬉々とした面持ちになり、私の傍らに勢いよく座った。

 ――こんなに喜んでくれるんだ。

 どうして彼が私を大切に扱ってくれているのかはいまだにわからないけれど、大叔父さんが亡くなってから誰かに構われることのなかった私は、胸に熱いものがこみ上げてくる。


「は、はい。今さっき目が覚めました」

「よかった! もう大丈夫なのか?」

「はい。少し疲れていただけなので……」


 別に具合が悪くて卒倒したわけではない。あまりにも常識離れした景色を、心の準備もなく見せつけられたせいだ。あと、たぶん精神的に疲労困憊していたことも重なったのだと思う。


「よかったです。陽葵さま、お腹はすいていらっしゃいますか?」


 従者の男の子が、ニコニコしながら私の布団の横に御膳を置きながら言う。確かさっき、紫月さんが琥珀って呼んでいったっけ。

 アーモンド形の切れ長の瞳が印象的だ。千代丸くんよりも人間に近い見た目だが、耳としっぽに狐の要素が残っている。


「……うん。ちょうどさっき千代丸くんにご飯の話を聞いてね。もう何時間も何も食べてないことを思い出したところだったの」

「そうですか、それはよかったです。お体の具合が気になったので、消化のいい物をと思いまして。卵粥をこしらえてまいりました」


 そう言うと、琥珀くんは御膳に乗った小型の土鍋の蓋を開けた。