鳥居をくぐる前は、大叔父さんの家の土地よりも狭かったように見えた境内だったけれど、今は地域の公民館よりも広大な土地になっている。敷地面積まで広がっているようだ。


「こ、これは……?」


 一体何が起こったって言うの……? 幻覚? いろいろなことがありすぎて、私とうとう頭がおかしくなっちゃったのかな……?

 超常現象を目の当たりにして、私は口をあんぐりと開けたままその場に立ち尽くしてしまう。――すると。


「紫月さま!」


 かわいらしい声が響いてきた。日本家屋の方を呆然と眺めていた私だったが、誰かが近寄ってきた気配を察する。


「ああ。千代丸、琥珀」

「おかえりなさいませですニャー!」

「ただいま」

「紫月さま、このお方は……?」


 私の傍らにいた紫月さんが、寄ってきた従者ふたりを会話を始めたので、やっと私は彼らに視線を移す。

 そこで私は、さらに驚愕の光景を目の当たりにする。


「ああ、俺の婚約者だ」

「ニャんと⁉」

「婚約者様ですか! とうとう身を固める決意を!」


 紫月が当たり前のように会話をしていた、従者らしきふたりは。

 ――人間ではなかった。

 ひとり(一匹)は、茶トラ模様の猫。グリーンのつぶらな瞳、にょろんと伸びた長い尻尾。紺色の作務衣を着用しているが、袖からはぷにぷにとしていそうなかわいらしい肉球が見えている。外見は明らかに猫そのものなのに、二本足で直立し人間語を話している。