紫月さんに引っ張られてたどり着いたのは、潮月神社という、古びた神社の鳥居の前だった。

 大叔父さんに連れられて、何度かお参りに来たことはある。しかし神主は不在で、普段あまり人の往来があるのを見ない。大叔父さんが町内会費が余った時にたまに修繕費にあてている、と言っていた気がする。

 要するに廃れた神社だが、建立されたのは室町時代らしく、社は歴史ある建造物だ。十三年前の地震による大津波の被害は、周囲を覆う防潮林によって奇跡的にほとんど受けず、その歴史はいまだに細々と続いている。


「ここ……ですか?」


 これがこの人の屋敷? まさか。社は今にも朽ち果てそうだし、人が住んでいる気配なんて皆無だ。神社周りを取り囲む林で見えないだけで、近くに住居があるとか?


「そうだ。とりあえず入ろうか」

「本当にここ……?」


 さっきから握りっぱなしの私の手のひらを引っ張りながら、紫月さんは悠然とした足取りで鳥居をくぐる。

 いやいや、こんな風が吹いただけで崩れそうな神社に人が住んでいるわけないじゃない――そう思いながらも、紫月さんの後に続く。

 ――すると。


「えっ⁉」


 ところどころ色褪せた、朱色の鳥居をくぐった瞬間。景色が一変した。

 掘っ立て小屋のようだった社は、端が見えないほど広大で荘厳な佇まいの日本家屋へ。雑草が鬱蒼と生い茂っていた境内は、整然と敷き詰められた石畳へ。

 屋敷の傍らには、鹿威しの鳴る透き通った水が溜められた池まである。金色や、錦色の美しい鯉が悠々と泳いでいるのが見えた。

 また、屋敷内の渡り廊下は、忙しそうに人影が蠢いていた。紫月の従者たちだろうか。先刻は人っ子ひとりいなかったというのに。