今までは、怒涛の展開についていけず、ただ彼に無言で歩調を合わせていたけれど、だんだん疑問が渦巻いてくる。
本能ではこの人を怖くないと言っている。きっとそれは間違っていない。大叔父さんのお店の常連さんは、みんな温かかったから。――だけど、でも。
私を一体どこに連れて行こうとしているのだろう。そして一体この人は何者なのだろう? さっきから一言もしゃべらないし……。
「あ、あの!」
私は勇気を出して声を張り上げた。すると彼はぴたりと足を止めて、振り返る。
「おお、元気があるじゃないか。ずっと黙っているから、疲れているのかと思ってお喋りは控えていたんだが」
まるで本当に愛する結婚相手に向けるような、ひどく優しい微笑みを浮かべていた。ぐるぐると胸中を旋回していた疑念が、少し和らぐ。
「あの、どうして私を……。私をどこに、連れて行くんですか?」
「ん? 今さら何を。俺には、君に恩があるから。困っていたようだったから、俺の元で世話をしてあげようと思ったのだが」
「恩……? すみません、まったく心当たりがないんですけど……」
「え?」
心外だ、という表情だった。まるで私の方が間違ったことを言ってしまったのではないかと、そんな錯覚に陥る。
でもどう記憶を呼び起こしても、昨日初めて会った人だし、名前だって分からない。
すると彼は、何度か瞬きしながらも私の顔をじっと見つめて、深く嘆息をした。
本能ではこの人を怖くないと言っている。きっとそれは間違っていない。大叔父さんのお店の常連さんは、みんな温かかったから。――だけど、でも。
私を一体どこに連れて行こうとしているのだろう。そして一体この人は何者なのだろう? さっきから一言もしゃべらないし……。
「あ、あの!」
私は勇気を出して声を張り上げた。すると彼はぴたりと足を止めて、振り返る。
「おお、元気があるじゃないか。ずっと黙っているから、疲れているのかと思ってお喋りは控えていたんだが」
まるで本当に愛する結婚相手に向けるような、ひどく優しい微笑みを浮かべていた。ぐるぐると胸中を旋回していた疑念が、少し和らぐ。
「あの、どうして私を……。私をどこに、連れて行くんですか?」
「ん? 今さら何を。俺には、君に恩があるから。困っていたようだったから、俺の元で世話をしてあげようと思ったのだが」
「恩……? すみません、まったく心当たりがないんですけど……」
「え?」
心外だ、という表情だった。まるで私の方が間違ったことを言ってしまったのではないかと、そんな錯覚に陥る。
でもどう記憶を呼び起こしても、昨日初めて会った人だし、名前だって分からない。
すると彼は、何度か瞬きしながらも私の顔をじっと見つめて、深く嘆息をした。