すると彼は、口角の端を上げて、どこか楽しそうに微笑んだ。そして、私の手を握って、優しく引っ張った。彼の力に合わせるように、立ち上がる私。

 えーとこの後はどうするんだろう、と私がまごついていると――。


「……!」


 抱きしめられた。昨日と同じように、また。とても優しく、とても熱っぽく。


「四十九日の法要が終わって、気が抜けたのかな? 俺の姫君は少し疲れているようだ」

「え? あの、その」

「ほら、少し顔色が悪い」


 私の顎に優しく手をかけて、上を向かせてくる彼。俗に言う、顎クイという行為を生まれて初めてされた私は、今度こそ脳内が故障してしまった。熱くなりすぎて、もう煙でも出てきそうだ。

 え⁉ 急に何⁉ 抱き寄せられた上に、こんな……!

 私本当にこの人と結婚するんだったっけ⁉

 予想の斜め上を行く行為を連発されてしまっため、私の思考はすでに死んでいた。眼前にある、超然とした笑みを湛えた麗しい彼の顔に、すべてが奪われてしまう。

 芳江さんを始めとする親戚一同が、ぽかーんとした顔をして私たちふたりを眺めているのが、視界の隅に映る。しばらくしてから、若いいとこたちからは「キャー!」という歓声のような悲鳴のような声も聞こえた。

 少しの間私をどこか面白そうに見つめた後、やっと彼は私の顎から手を放す。しかし今度は私の手のひらを優しく握ると、縁側の方へとすたすたと歩んだ。


「さあ。早く俺たちの家に行って休もう。このままでは倒れてしまう」

「あの、えーっと……?」