「えー! うっそー! いいなあ! こんな美形と結婚!」


 芳江さんの娘が本当に羨ましそうに言った。いや、確かに私にはもったいないいい男だけど……。彼のことなんて名前も知らないし、婚礼だなんていきなり言われて、思考回路が破壊されてショートしてしまいそうだ。


「さ、陽葵。行くぞ」

「ええええ、い、いやどういうことなのかまったく、あの」

「何を言っているんだ?」


 それはこっちのセリフです、と言おうとした私だったけれど、彼が私に向かって、少し意味深な雰囲気で目配せをし、ゆっくりと頷いた。

 ――話を合わせてくれ。

 そう言っているように感じて、私ははっとする。

 もしかすると彼は、さっきの私たちの話を聞いていたのかもしれない。遺言状が無効で、私が追い出される――といった話だ。
 
 彼には何らかの策があって、私を手助けをしてくれるってことなんかもしれない。

 冷静に考えたら、昨日出会ったばかりのほぼ初対面の人が私を救ってくれるはずはないのだけど。信頼していいわけもない。

 だけど、昨日の彼の様子を思い起こすと。

 大叔父さんのケーキを懐かしんでくれて、私の作ったチーズケーキをとてもおいしそうに食べてくれた彼は、きっと悪い人じゃないと思えた。いや、絶対。

 ――だから。


「そ、そうです! 私、この人と結婚するんです!」


 私は彼の話に乗ることにした。あまり状況が飲み込めていない親族の前で、堂々とそう言い切る。