縁側に座っていると、仄かに潮の香りがする風が頬をくすぐる。つけっぱなしの風鈴からは、かすかに涼し気な音が響いてきた。

 日暮の鳴く声が遠くに聞こえる夏の終わりの、どこか懐かしく寂寥感の漂う夕方。明日の準備をひと通り終えた私は、ぼんやりとオレンジ色に染まった空を眺めていた。


「……ひとりだと余計寂しいなあ」


 なんとなく感傷的な気分にさせられるこの時期のこの時間は、決して嫌いではなかった。しかし両親を幼い頃に交通事故で失い、その後自分を育ててくれた大叔父さんまでつい先日亡くした孤独な私にとっては、やけに寂しさが身に染みる。

 大叔父さんは、この家の近くで喫茶店を営んでいた。彼の作る甘くて優しい味のケーキや、深みのあるコーヒーに魅入られた私は、中学生になったくらいから最近までずっと、学校に行きながらもお店を手伝っていた。

 十九になったばかりの私は、お店で出すスイーツの拵え方やコーヒーの挽き方も一通り覚えている。高校卒業後は就職せずに、本格的に大叔父さんの元で働こうと思っていたのに。

 高校の卒業式の直後、大叔父さんは病に倒れてしまったのだった。今までずっと持病を患っていたが、私に隠しながら騙し騙し過ごしていたということを、この時に初めて私は知った。

 とはいえ、彼ももう八十歳間近。日本人男性の平均寿命から考えたら、体のどこにも不調がない方が珍しいだろう。

 だけど大叔父さんはいつも元気そうで、私には優しく笑いかけてくれて。「ケーキが余ったから、陽葵が食べるかい?」って、私を太らすような勢いで、毎日のように言ってくれて。