大叔父さんとの思い出が詰まったこの家をあなた達が奪うって言うの? 彼の生前、数年に一度しか顔を見せに来なかったあなた達が? 病に倒れた彼の看病も、お見舞いも、一度も来なかったあなた達が?


「出て行けとは人聞きが悪いわねえ。そもそも身寄りのないかわいそうなあなたが、今までここにいられたのはお父さんの好意なのよ?」


 それはそうだ。だけど、あなた達は何もしていないじゃない。


「まあ陽葵ちゃんも若いんだからさあ。ここを出てもひとりでやっていけるでしょう? ……女の子なんだから、いろいろ武器もあるだろう」


 そう言うと、大叔母と大叔父は顔を見合わせて笑った。下卑た笑い方。貶められて、恥ずかしくて、私は涙が零れそうになった。

 ――泣くもんか。

 私は俯いて、ぎゅっと膝の上で握り拳を作る。唇をかみしめて、涙腺が緩むのを堪えた。こんな人たちの前で涙なんか見せるもんか。負けるもんか。

 だけどそう思えば思うほど、目頭が熱くなっていく。大叔父さんと大切にしてきたものが、この人たちに全部取られてしまう。

 きっと、この家も喫茶店の建物もすぐに潰されてしまうだろう。その後この人たちは遺産を使って新築の家を建てたり、余った土地を売ったりして、贅沢三昧をするのだろう。

 ――悔しい。悔しい。悔しい……!

 堪え切れず、涙が目尻から落ちてしまいそうになった――その時だった。


「ほう。じゃあその女の子の武器とやらは、俺のために使ってもらおうかな」


 涼し気で美しく、温かい声だった。それが突然響いてきた。