いったいなぜ、これが無効なんだろう……⁉
「日付と押印が無いんだよねえ」
屋内だというのに、煙草をぷかぷかと吸う芳江さんの夫。どこか人を小馬鹿にしたような口ぶりだった。
「日付と、押印……⁉」
確かに、遺言書にはそれらは記されていない。けど、だからといって!
「それだけで、大叔父さんが間違いなく書いたこれが無効になるんですか⁉」
「残念ながらなるのよねえ。弁護士さんにも確認したしねえ」
全然残念ではなさそうに芳江さんは言う。むしろ薄ら笑いを浮かべていて、私は気持ち悪さを覚えた。
彼らの娘や息子は、居間の端の方に座っていた。幼い頃は仲良く一緒に遊んだ覚えがする。どこか気まずそうに私を見ていたけれど、何も言わない。
「それでね、陽葵ちゃん。遺言書が無効になると、お父さんのひとり娘である私に全財産が相続されるってわけ」
「…………」
遺産相続の話なんてよくわからないけれど、きっとそうなのだろう。大叔父さんの妻である大叔母さんは私が生まれる前に亡くなっているし、そうなると常識的に考えて遺産を相続するのは彼の子供だ。
私のような遠縁の親戚なんて、本来なら遺産を分配するメンバーには含まれもしないはずだ。
「つまりこの家は、私の物ってわけなのよ」
「そうそう。陽葵ちゃんには申し訳ないけど、何も渡すことはできないんだよねえ」
「……出て行けってことですか」
声を押し殺して私は言う。
「日付と押印が無いんだよねえ」
屋内だというのに、煙草をぷかぷかと吸う芳江さんの夫。どこか人を小馬鹿にしたような口ぶりだった。
「日付と、押印……⁉」
確かに、遺言書にはそれらは記されていない。けど、だからといって!
「それだけで、大叔父さんが間違いなく書いたこれが無効になるんですか⁉」
「残念ながらなるのよねえ。弁護士さんにも確認したしねえ」
全然残念ではなさそうに芳江さんは言う。むしろ薄ら笑いを浮かべていて、私は気持ち悪さを覚えた。
彼らの娘や息子は、居間の端の方に座っていた。幼い頃は仲良く一緒に遊んだ覚えがする。どこか気まずそうに私を見ていたけれど、何も言わない。
「それでね、陽葵ちゃん。遺言書が無効になると、お父さんのひとり娘である私に全財産が相続されるってわけ」
「…………」
遺産相続の話なんてよくわからないけれど、きっとそうなのだろう。大叔父さんの妻である大叔母さんは私が生まれる前に亡くなっているし、そうなると常識的に考えて遺産を相続するのは彼の子供だ。
私のような遠縁の親戚なんて、本来なら遺産を分配するメンバーには含まれもしないはずだ。
「つまりこの家は、私の物ってわけなのよ」
「そうそう。陽葵ちゃんには申し訳ないけど、何も渡すことはできないんだよねえ」
「……出て行けってことですか」
声を押し殺して私は言う。