「でも、紫月はこの町を守る神様なんです。参拝者が少なくたって、あの人は静かに優しくこの町を見守ってくれていた。……町では最近、犯罪の件数が増えています。きっと、紫月が人と人との縁を結んでいないから……」


 パトカーや消防車のサイレンが、毎日のように聞こえてくるようになった。和菓子屋「うさぎ」の女将さんも、万引きが増えたと嘆いていた。……きっとそれは、二年前から。


「紫月は町に必要なんです。……あなたが望むのなら、私はもう一生紫月に会いません。それならば、あなたの辛い気持ちも少しは紛れるのではないでしょうか。紫月もあなたと同様に、愛する人を失うことになるのですから」


 断腸の思いだった。本当は会いたくて会いたくてたまらない。私の手作りおやつを囲んで、彼と他愛のない話をするあの幸せなひと時を、味わいたくてたまらない。

 だけど夜羽の紫月に対する憎悪を紛らわさせるためには、もうこれしか思いつかなかった。

 ――私の知らないところで、千代丸くんや琥珀くん、他の従者と一緒に幸せに過ごしてくれればもうそれでいい。例え離れ離れになってしまっても、大好きな人が穏やかに生きてくれればそれでいいんだ。

 これからの私は、私を愛してくれた人がいたという幸せな過去を噛みしめて、踏ん張って生きていこう。


「なんだと……」


 信じがたい、という顔をして夜羽は私を見据える。その傍らで月湖さんは、目を細めて彼を見ていた。

 そしてしばらくしてから、夜羽は自嘲的な笑みをこぼした。