「違うわ。あなたも本当は分かっているでしょう? 私は町を津波から守るために、自らこの身を差し出したのよ。この町は、あの人を必要としている。だってあの人は、この町の人々の縁を結ぶ神様なのだから」

「…………」


 月湖さんに諭された夜羽は、歯がゆそうな顔をして下を向く。


「……では我はどうすればいいのだ。お前のいないこの寂しさを、辛さを……。どこに向ければいいのだ。あいつが悪くないことくらい、とうの昔に分かっていたさ。だがあいつを憎むことで、我は自分を保っていたのだ……!」


 絞り出すような夜羽の言葉が、私の胸に深く突き刺さった。

 十五年前に月湖さんをうしなった彼からしてみたら、たった二年間という短い期間かもしれないけれど、私も大好きな紫月を失ったこの二年間は、深い孤独と絶望に包まれた期間だった。

 会いたくて会いたくて堪らないのに、きっともうその願いは叶わない。このやり場のない辛さを、どう解消すればいいのか分からなかった。

 だから夜羽の吐露した気持ちが、まるで自分の言葉のように感じられた。


「私は……。あなたに許してなんて言えません」


 震える声で私は夜羽に向かって言った。夜羽ははっとしたような顔をして私を見る。月湖さんは、静かな瞳で私を見つめた。


「あなたも分かっている通り、月湖さんが命を落としたのは紫月のせいではありません。……でも、きっかけではあります。あなたが紫月を憎む気持ちも分かるんです。私も、紫月を失ったこの二年間、寂しさで潰されそうでしたから」


 夜羽は口を引き結んで、私の話を聞いていた。