「はは、そうだな。よろしく頼むぞ、陽葵のこと」


 どうやら大叔父さんは、彼の嫁にもらうという言葉は本気にしていないみたいだ。でも、私のことを彼が気にかけてくれているのが、嬉しかったようだった。

 ガチャン、と足元で音がした。ふたりの話が気になって、知らず知らずのうちにかなり彼らに接近してしまっていた上に、足元に置かれていた空の酒瓶を一本倒してしまったのだった。

 その音に気付いたふたりは、私の方に顔を向けた。バツの悪くなった私は苦笑いをするも、ふたりは優しそうに微笑みかける。


「おや、陽葵。起きちゃったのかい?」

「……うん」


 ふたりの方に歩み寄りながら、私は大叔父さんの言葉に頷く。金髪の彼は、目を細めて私を見る。


「うるさかったか? すまんな」

「ううん。たまたま目が覚めただけだよ」

「……そうか」


 そう言うと、彼はおちょこに入っていたお酒を飲みほした。枝豆の入っていたお皿も、すでに空になっている。


「それならそろそろ店を閉めるかねえ。あんたもキリがいいみてぇだし、いいだろ?」

「ああ、構わない」


 彼は立ち上がり、「つけで」と大叔父さんに言うと、傍らに立つ私の頭を、優しく撫で始めた。


「またな、陽葵」

「うん」

「――おやすみ」


 屈んで私の視線と高さを合わせて、やけに優しく彼は言う。私の頭をいまだに撫でながら。

 その表情と声が、やけに心に響いて。温かいんだけれど切ないような、なんだか甘酸っぱいような、不思議な気持ちになった。

 ――そこで十九歳の私は目が覚めた。