「ええ。夜羽も、そこまであなたの愛が深いとは分かっていなかったのでしょうね。十五年も前に命を落とした私のことをいまだに愛しているくせに、なぜそれが分からないのでしょうか。……まあ、今のあの人は憎悪の塊なので仕方のないことかもしれませんが」


 夜羽のくだりの時の月湖さんは、どこか苛立っているような、しかし悲しんでいるような、難しい表情をしているように見えた。

 ――それはさておき。私が、ずっと思い続けていたから紫月は完全に消えていないって? もしそれが本当だとしたら嬉しいけれど、俄かには信じられなかった。


「でも消えていないのなら、なぜ姿を見せてくれないのですか……?」


 この二年間一度も、紫月の姿はおろか気配だって一切私は感じていない。彼は私を愛してくれていた……とは思う。彼の私に対する態度から考えると、きっとうぬぼれではないだろう。


「見せたくても見せられないのですよ。あの人の命は本来なら二年前に消えてもおかしくなかった。だけどあなたの強い気持ちで、かろうじて生きながらえているのです。しかしこの二年間常に、風前の灯。そんな状態では、いくら神様でも姿を具現化することはできません」


 そう言えば、初めて会った時も紫月は狐の姿で弱っていて、少し力を取り戻した時にようやく人型になっていたっけ。

 今は狐の姿にすらなれないくらい、弱っているということみたいだ。

 月湖さんは遠い目をして虚空を眺めると、さらにこう続けた。