「でも、私が現世に現れることができたのは、時節が理由だけではありません。……あなたですよ、陽葵さん」

「私……?」

「あなたが心を込めて作られたお供え物を持って、神社で強く祈ってくださったから……。紫月さまに会いたいと、懇願してくれたから……。私の魂がそれに反応して、天界から降りることができたのです」

「私のお菓子と、祈りが……」


 ドーナツの入ったビニール袋を持つ手が、嬉しさで震えた。

 ――無駄じゃなかった。私が豆腐ドーナツを心を込めて作って、潮月神社で必死に祈ったのは、無駄じゃなかったんだ。たったひとりで抱えていた二年間の絶望に、月湖さんが反応してくれた。

 それだけで嬉し涙が溢れそうになる。――だけど。

 紫月はもうこの世にいない。そのことはやっぱり変わらない。私は俯いて、こう言った。


「……月湖さん。紫月はもう、消えてしまったんです」

「完全に消えたわけではありません」


 月湖さんはきっぱりと、断言するように言った。一瞬意味がわからず、私は虚を衝かれる。

 完全に消えたわけじゃない……⁉ 紫月が……!?


「ど、どういうことですか!?」


 思わず月湖さんに詰め寄ってしまう私。彼女はそんな私の様子に戸惑うこともなく、静かにこう続けた。


「あなたが紫月さまのことを思い続けていてくれたからです。神様は、誰かに慕われていれば消えることはありません。それが例え、たったひとりでも」

「私が……?」