「……紫月。紫月! 千代丸くん! 琥珀くん!」


 豆腐ドーナツを抱えながら、私は優しかったあの人たちの名を叫ぶ。


「ほら! みんなの好きな豆腐ドーナツだよ! お菓子だよ! ねえ、一緒に食べようよ!」


 そう声を掛けるけれど、やはり何も返答はない。


「私参拝に来たんだよ! 参拝客が来れば、紫月の力が戻るんでしょ!?」


 すでに消滅しているらしい紫月の力が、そんなことで戻るわけはない。無駄だと分かっていても、私はそう叫ばずにはいられなかった。


「ねえ! 紫月は縁結びの神様なんでしょ! 人と人の縁を結ぶように、道を示してくれるんでしょ⁉ ねえ、だったら……だったら、私と紫月の縁を結んでよっ!」


 やけくそになりながら、私はそう絶叫する。

 ――紫月。ねえ、会いたいよ。あなたのこと、好きになっちゃったんだよ。こんな気持ちにさせておいて、急に消えるとかあり得ないんだけど。……ねえ。ねえってば。

 私は堪え切れなくなって、その場にしゃがみこみ、号泣する。「紫月、紫月……」と愛しいあの人の名前を呼びながら、嗚咽を漏らす。

 本当にもう会えないの? あなたの存在は消えてしまったの……?

 世界中のすべての人があなたのことを忘れたとしても、私は覚えているのに。

 だからねえ紫月。もう一度……。


「……陽葵さん、ですね」


 打ちひしがれてしゃがみこんでいた時、間近から声が聞こえてきた。はっとして顔を上げると、そこには――。


「あなたは……?」