作るのは……豆腐ドーナツにしよう。私が紫月に出会ったその日に、彼に初めて食べてもらったあのお菓子。なんとなく、あれしかないだろうと思った。

 私はスーパーに寄り道し、強力粉、豆腐、ベーキングパウダーと、今の家にはまったくストックしていないお菓子の材料を、次々と買い物かごに放り込んでいく。

 そして買い物を終えてから、駆け足でひとり暮らしのアパートへと戻ったんだ。



 
 お菓子を作るのは二年ぶりだったけれど、分量もきっちりと覚えていたし、手順を迷うこともなかった。豆腐ドーナツは、大叔父さんと一緒にいた頃何度も作っていたためだろう。

 揚げたてでグラニュー糖をまぶした穴の開いた豆腐ドーナツを、ひと口齧る。もっちりとした食感に、優しい豆腐の風味が口の中いっぱいに広がった。

 ――すると。


『陽葵』


 頭の中で、紫月の私を呼ぶ声が鮮明に蘇った。彼と結びつく間接的な原因となったこのお菓子が、私の中の彼を呼び起こしたのだと思う。

 その瞬間、涙が一気に溢れ出てきた。思えば、ここ二年間まともに泣いていなかった。空っぽになってしまった私は、泣くような気力すらなかったんだ。

 紫月に……。紫月に、これを持って行かなくちゃ。千代丸くんや琥珀くんにも!

 思い立った私は、豆腐ドーナツをビニール袋に詰めて、飛び出すように家を出た。そして全速力で走って、木々に隠された潮月神社へと向かった。

 神社へとたどり着くと、久しぶりに本気で走ったせいか、どっと疲れを感じた。私はしばらくの間鳥居の下で肩で息をして呼吸を整えると、ゆっくりと社へ向かった。