私が幼かった、十五年前の今日。地震によって発生した大津波に、街中は飲まれた。紫月と月湖さんの力で被害は最小限に収められたはずだけど、不運にも命を落とした人や、住んでいた家を失った人は少数ながらも存在した。
毎年この日は、あの災害によって犠牲になった人のための、慰霊祭が行われる。津波の発生時刻に合わせた黙とうも。
式典が行われている公園を通り過ぎようとした時、ちょうどそのタイミングだったようで「黙とう!」という張りつめた声が聞こえてきた。しん、と静まり返る公園内。
私も反射的にその場に立ち止まり、目を閉じて祈りを捧げた。――あの日、紫月が居なければ。私もきっとあの津波に飲まれて、命を落としていただろう。
紫月がいたから、今の私はここにいる。閉じた瞼の中で、彼が笑いながら私に調子のいいことを言ってくる光景、作ったおやつをおいしそうに食べる顔、私が病に倒れた時に心配そうにしている様子なんかが、次々と蘇ってきた。
――すると、ふとお菓子を作りたくなった。
勤務先の和菓子店では、女将さんのお手伝いで調理をすることはあった。だけど私はこの二年間、プライベートで製菓をすることは一度もなかった。作ったところでおいしそうに食べる紫月や千代丸くん、琥珀くんがいないと思うと、まったくやる気が起きなかったんだ。
だけど今突然、「おいしいお菓子を作りたい」という気分になったんだ。どうしてかは、はっきりとは分からない。慰霊祭での黙とうで、紫月に抱いていた想いが深くなったのかもしれない。
毎年この日は、あの災害によって犠牲になった人のための、慰霊祭が行われる。津波の発生時刻に合わせた黙とうも。
式典が行われている公園を通り過ぎようとした時、ちょうどそのタイミングだったようで「黙とう!」という張りつめた声が聞こえてきた。しん、と静まり返る公園内。
私も反射的にその場に立ち止まり、目を閉じて祈りを捧げた。――あの日、紫月が居なければ。私もきっとあの津波に飲まれて、命を落としていただろう。
紫月がいたから、今の私はここにいる。閉じた瞼の中で、彼が笑いながら私に調子のいいことを言ってくる光景、作ったおやつをおいしそうに食べる顔、私が病に倒れた時に心配そうにしている様子なんかが、次々と蘇ってきた。
――すると、ふとお菓子を作りたくなった。
勤務先の和菓子店では、女将さんのお手伝いで調理をすることはあった。だけど私はこの二年間、プライベートで製菓をすることは一度もなかった。作ったところでおいしそうに食べる紫月や千代丸くん、琥珀くんがいないと思うと、まったくやる気が起きなかったんだ。
だけど今突然、「おいしいお菓子を作りたい」という気分になったんだ。どうしてかは、はっきりとは分からない。慰霊祭での黙とうで、紫月に抱いていた想いが深くなったのかもしれない。