和菓子屋を後にしてから、私はとぼとぼといつもの道をひとりきりで歩く。家路ではない。私には、毎日行くべきところがあった。


 海岸近くに生い茂る、防波林の奥。まるで意図的に隠されたかのような場所にある、人々に忘れられた神の住処。――二年前、私が楽しく和やかな時を過ごした、あの潮月神社だ。

 神を失った神社は、本当に誰もが忘却していた。大叔父さんのお店の常連さんで、私が幼い頃に神社へと連れて行った人ですら、「神社なんてあの辺にあった記憶はないけど」と、口々に言った。

 神様がいなくなったこの街は、そのせいか事故や事件が以前よりも格段に増えていた。私も一度、空き巣被害に遭ったことがある。

 人と人との優しい縁を結ぶ守り神の存在は、人間たちに余裕を失わせてしまったのだろう。

 すでに鳥居の塗装は剥がれ、中の木材はむき出しになっていた。時々、外壁塗装の作業員の見よう見まねで、私が塗料を塗っていたけれど、素人の女の腕じゃしっかりと補修できるわけもなく、潮風ですぐに痛んでしまう。石柱は真ん中から無残に折れて地面に転がっているし、社も屋根が吹き飛んでしまっている。


「……屋根、直せるかなあ」


 二年間ひとりでお参りに来ては、ひとりで壊れた箇所は自分なりに修繕していたけれど、全然手は追い付かずどんどん神社全体は無残になっていく。

 ――だけど私は、どうしても諦められなかったんだ。

 ホコリまみれの賽銭箱の中に五円を投げ入れ、二礼二拍手したのち、手を合わせる。


「紫月……」