「陽葵ちゃん、もう今日は上がっていいわよ。お疲れ様」
「――はい」
和菓子屋「うさぎ」の店内。カウンターの中で、おかみさんは目じりに皺を作って微笑み、優しく私に言う。
二年前にここで働き出してから、彼女はずっと私によくしてくれていた。大叔父さんのお店にもたまに来てくれていた彼女は、私の境遇を不憫に思っているのかもしれない。
「あ、そうそう。草餅作りすぎちゃったのよ。陽葵ちゃん、持って帰って食べない?」
女将さんはよくこうして、お店の余りものを私に持ち帰らせようとする。――だけど、私は。
「ありがとうございます。……でも私、あまり食欲くなくて。他の従業員の方に渡してください」
小さく笑って、申し訳なさそうに私は言う。女将さんは心配そうな面持ちになった。
「そうかい? ……あんた、本当に痩せているから。ちゃんと食べなきゃだめよ?」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですから」
こんなやり取りも、しょっちゅうしている。元々私はそんなに太らないタイプだけれど、二年前のあの日からずっとあまり食欲が湧かない。倒れてしまわないように、毎日必要最低限の栄養は摂取しているけれど。
「お先に失礼いたします」
いまだに不安な瞳を私に向ける女将さんを尻目に、私はぺこりと頭を下げてからそそくさとお店を出た。彼女が身を案じてくれているのはありがたいことではあるけれど、今の私にはその優しさが心苦しい。
私のこの陰鬱な気持ちは、誰が何をしようと消えることはないのだから。
「――はい」
和菓子屋「うさぎ」の店内。カウンターの中で、おかみさんは目じりに皺を作って微笑み、優しく私に言う。
二年前にここで働き出してから、彼女はずっと私によくしてくれていた。大叔父さんのお店にもたまに来てくれていた彼女は、私の境遇を不憫に思っているのかもしれない。
「あ、そうそう。草餅作りすぎちゃったのよ。陽葵ちゃん、持って帰って食べない?」
女将さんはよくこうして、お店の余りものを私に持ち帰らせようとする。――だけど、私は。
「ありがとうございます。……でも私、あまり食欲くなくて。他の従業員の方に渡してください」
小さく笑って、申し訳なさそうに私は言う。女将さんは心配そうな面持ちになった。
「そうかい? ……あんた、本当に痩せているから。ちゃんと食べなきゃだめよ?」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですから」
こんなやり取りも、しょっちゅうしている。元々私はそんなに太らないタイプだけれど、二年前のあの日からずっとあまり食欲が湧かない。倒れてしまわないように、毎日必要最低限の栄養は摂取しているけれど。
「お先に失礼いたします」
いまだに不安な瞳を私に向ける女将さんを尻目に、私はぺこりと頭を下げてからそそくさとお店を出た。彼女が身を案じてくれているのはありがたいことではあるけれど、今の私にはその優しさが心苦しい。
私のこの陰鬱な気持ちは、誰が何をしようと消えることはないのだから。