きっと月湖さんは、そんな紫月を心から慕っていたのだ。だから、津波の後も神様として紫月にこの町を守ってもらいたかったんだ。例え、自分の命がどうなろうとも。


「うるさいっ! 戯言をっ!」


 夜羽は、唇を噛みしめて、鬼気迫る表情を紫月にぶつける。憎悪に満ちた、ぎらついた瞳は、私の背筋をぞくりと凍らせる。

 もしかして彼は、自分の恋人を失ったことによる行き場のない悲しみを、紫月を憎むことによって紛らわせているのかもしれない。

 月湖さんのことを、心から愛していたんだろう。だからこそ、紫月のことが憎くてたまらないんだ。


「……嫁の方をお前から取り上げようと思っていたが。もうお前の存在自体が気に食わなくなった。お前の方を消してやるっ!」


 夜羽はそう叫ぶと、紫月に向かって黒い炎のようなものを放出した。紫月は腕を光らせて構え、それを防ぐけれど、それだけで彼の顔色は一気に悪くなってしまった。

 本当にもう、紫月には力が残っていないんだ。このままじゃ、本当に彼が消えちゃう!


「やめて! やめてよっ! お願いだから!」


 格子を乱暴に揺らしながら、私は悲痛の声を上げる。しかし夜羽は、攻撃の手を全く緩めない。次々と黒い炎の刃が、紫月に襲い掛かる。

 紫月の方は一切攻撃せず、しばらくの間それを神通力で防いでいたようだったけれど、ついにその場で膝をついてしまった。


「ふん。もうここまでのようだな、紫月。お前の存在は、もうすぐ消滅する。お前の力によって命を吹き込まれた、あの神社の従者どももな。神のいなくなった神社は、人々にもそのうち忘れ去れるだろう」