信じられないことを夜羽に言われて、思わず掠れた声で私は問う。夜羽は私を見下ろしながら、ほくそ笑む。


「十数年前の大津波の時だ。あいつは街を救うために、力のほとんどを使ってしまったのだよ。ろくに参拝にも訪れない人間などを救うために身を削るなど、本当に間抜けな奴だな」

「なんですって……!」

「それまではたまに来る参拝客でなんとか自分を保っていたようだが。津波の後のあいつは、消滅してもおかしくないくらい弱っていたな。人間に存在を忘れ去られてしまうほどに。今思えば、あの時にとどめを刺すべきだった。……しかしあの時は俺も、気が動転していたからな」


 夜羽がなぜ気が動転していたのかはわからないけれど、そんなことはどうだってよかった。

 紫月は私を……私たちを助けるために、力を使い切ってしまったということ? そのせいで、私や大叔父さんは、彼のことを忘れてしまったということ?

 そんな……。私たち人間のために、紫月は自分の身を犠牲にしていたっていうの?

 すぐにからかうようなことを言ってくるし、食いしん坊だし、見かけによらず子供っぽいところもある紫月。自分がそんな大変な目に遭っていたなんて、おくびにも出さない人。

 ――なんでよ。そんなこと、全然知らなかったよ。ちゃんと言ってよ、紫月。私、それを知っていたら……。


「本当に馬鹿だなあ、あいつは。助けたところで忘れ去られ、感謝する人間など皆無だったというのに。本当に馬鹿だ。……あいつも、月湖も」

「月湖……?」