紫月と同じように、神秘的な雰囲気を纏っていた。もしかして、あの人も神様なんだろうか?

 そんなことをひとりで考えている時、下駄を鳴らす音が聞こえてきて、私は身構える。


「やっと目覚めたか、緊張感のない娘だな。こんなところで何時間も眠りこけるとは。あいつに似て嫁も神経が図太いな」


 夜羽が格子越しに姿を現した。

 し、神経図太いって。まあ確かに紫月は周囲を気にしないマイペースさはあるけれど、私は違うってば。……たぶん。

 なんて、心外だったので私は心の中でこっそり反論する。……いや、そんなことをしている場合じゃなかった。


「な、何か用なの!?」

「いいことを教えに来たのに、なんだその言い草は。お前の夫がこちらに向かっているのだよ。愛する妻を助けに来たというわけか」

「えっ! 紫月が!?」


 ――来てくれたんだ、紫月。

 幼い私が参拝客を連れてきて彼の力を取り戻す手伝いをしたことで、大叔父さんを亡くしてひとりきりで困っていた私を律義に助けに来てくれて。

 それなのに何も覚えていない私は嫁になんてならないって言ってしまったのに、それでも傍に置いてくれて。

 なんて優しい狐さん――神様なのだろう。

 私が心の中で彼に対する切ない気持ちを抱いていたら、夜羽は「ふん」と小馬鹿にしたかのように鼻を鳴らした。


「助けに来るなど、無駄なことを。あいつにはほとんどもう力は残っていないというのに。十年以上もおとなしくしていたためか、最近少しは戻っていたようだが。しかし一度でも大きな力を使ったら、あっさりと息絶えるだろうな」

「力が残っていない……? 息絶えるですって……!? どうして……!」