なぜ私は彼に狙われているのだろう? 夜羽に恨まれている、と紫月は言っていたけれどふたりの間に一体何があったの?

 第一、優しい縁結びの神様である紫月は、誰かから恨みを買われるような人じゃないじゃない。


「ふん。お前個人に恨みはない。しかし我はあいつが……紫月が幸せになることが許せないのだよ。だから我は、あいつからお前を奪う。お前はここで一生、死ぬまで暮らすのだ」

「はあ!? 冗談じゃない! 出してよ!」


 私は立ち上がって、格子越しだけれど夜羽に詰め寄るようにして言った。

 襲われた時は命の危険すら感じていた私だけれど、今の話によるとどうやら幽閉するだけで危害を加えるつもりはしないらしい。だけど、こんな薄暗いところに閉じ込められ続けるなんてまっぴらごめんである。

 すると、夜羽は忌々しそうに顔を歪めた。


「あいつに似て、無駄に威勢のいい奴だなお前は。話しているだけで腹立たしい。……とにかくひとりでここにいろ」


 そう言い捨てると、夜羽は私に背を向ける。


「ちょ、ちょっと! 出してってば! 私があなたに何をしたって言うの⁉ 紫月が心配するじゃないの! 出して! 出せー!」


 必死にそう叫ぶ私だったけれど、夜羽は振り返ることなく、下駄の音を響かせながら去って行ってしまった。


「もう、本当に一体なんなの……!」


 暗い中ひとり取り残された私は、妙に孤独を感じてぼそりと独り言ちる。しかしすぐに気を取り直して、なんとか脱出できないかと、格子に手をかけて乱暴に揺らした。

 だが、格子は頑丈で、まったく動く気配がなかった。