私は恐怖を必死に抑え込みながらも、あらん限りの力を出して手足をばたつかせる。こんな奴に連れていかれてたまるかと、もがく。

 だって紫月は心配性だから。私がさらわれたと知ったら、自分の身など顧みずに助けに来るだろう。私のために、そんなことさせたくなかった。


「小うるさいじゃじゃ馬め。ちょっと眠っていろ」


 苦々しい口調で夜羽がそう言ったかと思うと、一瞬で酷い睡魔に襲われて、上瞼と下瞼が強烈な力で引き寄せられる。どうやら、眠りの術でもかけられたようだ。

 眠るまい、と必死に私は目を開けようとするけれど、抵抗叶わず視界は暗闇となった。

 ――紫月。ごめんなさい。

 自分の不用意な行動が招いた結果だった。彼に対して深く申し訳ないと思った次の瞬間、私は意識を手放したのだった。





 気づいた私がいた空間は、木材の格子で組まれた座敷牢の中だった。部屋に明かりはなく、牢の中にある小さな窓だけが、わずかに室内を明るくしてくれていた。

 目覚めてからしばらくの間は記憶が少し曖昧だったけれど、すぐに自分の身に何が起こったのかを思い出す私。

 ――そうだ。紫月を恨んでいるらしい夜羽とかいう山の神に、私さらわれちゃったんだ。ということは、ここは夜羽の根城ということだろうか。


「気が付いたようだな」

「……!」


 どこからともなく、声が聞こえてきたかと思ったら、夜羽が格子越しに姿を現した。腕組みをして、地べたに座り込んでいる私を見下すように眺めている。


「わ、私をどうする気? 一体なんでこんなことするの!」