「わ、私はまだ紫月の嫁じゃないよ!」


 そう言えばもしかしたら興味をなくして去ってくれるんじゃないかと、一縷の望みをかけて言う。実際に、まだそうではないし。

 すると夜羽は眉をひそめて私を観察するように凝視した後、ふっと小さく笑った。


「つまらない嘘をつくな、娘」

「え⁉ う、嘘じゃないけど!」


 本当に嘘ではない。だって私はまだ紫月と正式に結婚したわけではないのだから。


「……あまりたわけたことを抜かしていると痛い目に遭わすぞ。お前からは紫月への愛を確かに感じる。夫婦でもなければそんな感情持ち合わせているわけがない。神である私を騙せると思うのか?」

「え……?」


 夜羽の言葉に、私は状況も忘れて驚かされてしまう。

 私から紫月への愛を感じる、ですって……? 本当に? でもこの人、敵らしいけれど神様だし、こんなことで嘘をつく必要はないよね?

 やっぱり私は紫月のことを、本気で……?


「しかし、こちらとしてはその方が好都合だ。お前らの愛が深ければ深いほど、引き裂きがいがあるというものよ」

「……!」


 逃げる間もなかった。それは一瞬だった。眼前の夜羽の姿が消えたかと思ったら、背後にぞくりとする冷たい気配を感じた。


「さあ、我と共に来るのだ」


 背後から羽交い絞めにされた上に耳元でそう囁かれ、私は身震いする。なんて邪悪で憎悪のこもった声なのだろう。

 どうして紫月は彼にここまで憎まれているのだろう。あんなに思いやりのある神様が、どうして……。


「嫌だ! 放して!」