とにかく、苺大福を食べてちょっと心を落ち着けよう。みんな境内か縁側にでもいるかな。

 炊事場からは境内の方が近かったので、渡り廊下を歩いてまずはそちらが見通せる場所まで行ってみる私。しかし、誰の姿もなかった。引き返そうと思ったその時。


「あれは……?」


 神社の前の道路に、黒くて丸い物体が見えた。少し蠢いているようにも見える。生き物だろうか?

 気になった私は、廊下から降りて草履を履き、境内を歩いて道路側の方へと歩み寄ってみる。その正体は、全身が真っ黒の猫だった。体を丸めて縮こまっている。

 あの様子、もしかして弱っているのかな……? 病気? 怪我?

 猫を助けてあげたくなったが私は鳥居の外に出るわけにはいかない。紫月を恨んでいるらしい夜羽とかいう山の神が、私を狙っているとのことだから。最近敷地の外に出る時はいつも紫月と行動を共にしていたから、危険はなかったけれど。

 それならば紫月を呼んで来ようと、私は踵を返そうとした。しかし、道路の先から車の走行音が聞こえてきてはっとする。

 車は黒猫が丸まっている側の車道を走っていた。どんどん迫ってきている。

 ひ、轢かれちゃう!

 気づいたら苺大福を乗せていた盆を投げ出し、鳥居の外に私は飛び出していた。そして迷わずにその黒猫を抱っこして、歩道側へと逃げる。

 車とはまだだいぶ距離があったため、運転手にも迷惑をかけることなく猫を救出することができて、私はひとり安堵の息を漏らす。

 苺大福は全部だめになっちゃったけど、まあまた作ればいい。猫の命には変代えられない。


「もう大丈夫だよ、猫ちゃん。怪我をしているのかな?」