「うん、おいしくできたと思うよ。ひとつここで食べる?」

「ああ、いただこう」


 私は紫月に差し出すために、天板の上に乗せていた苺大福を取ろうとした。しかし、紫月も同じ苺大福を同じタイミングで取ろうとしたらしく、手が触れ合ってしまった。

 紫月の指が、私の白玉粉まみれの指と触れ合う。長く美しい指の温かみ。

 彼が必死に私を看病していた時の顔が、思い起こされてしまった。


「ひゃっ!」


 思わず変な声を上げ、紫月の温もりから離れるように手を振り上げてしまう私。その拍子に、苺大福が床にひとつ落ちてしまった。


「なんと! もったいない!」


 紫月は神様らしくないことを叫びながら、苺大福を拾う。そしてそのまま、口へ入れようとした。


「ちょ、ちょっと紫月! 下に落ちたのは食べないの!」

「陽葵が作ったものなら、少しくらいホコリがついていても構わない。むしろスパイスだ」


 苺大福を眼前に持ちながら、真顔でわけのわからないことを言う。


「はあ⁉ いいから! 汚いからやめなさい!」

「なぜだ? 人間にも、三秒ルールという習わしがあるだろう。今は0.5秒くらいで拾ったんだから何の問題あるまい」

「なんで神様がそんなこと知ってるの⁉ たくさん作ったんだからひとつくらい諦めてよ! とにかくやめて!」


 私が必死に主張すると、紫月は「くっ……。君がそこまで言うのなら……。断腸の思いだ」と、心底口惜しそうに言い、拾った苺大福を屑籠の中に放った。たかが苺大福ひとつに、なぜそこまで悔しがれるのだろう。