上半身だけ起こした私をきつく抱きしめる紫月。本当に強い力だったので、少し背中が痛いくらいだったけれど、優しい温かさが心地よかった。


「無事でよかった……陽葵」


 私を抱きしめたまま、耳元で涙声で紫月は言う。病み上がりの心身が、彼の愛で満たされていくような感覚に陥った。

 今までも彼に抱きしめられたことはあったけれど、歯の浮くような台詞を同時に言ってきたり、からかいの延長のような流れだったりしたためか、恥ずかしいという気持ちの方が大きくて、こんな風に「愛されてるなあ」っていう感覚とは、全然違っていた。

 ――私のために。ここまで一生懸命になって、身を削って、看病してくれて。心から愛おしんでくれて。


「紫月……」


 抱きしめられながらも首を動かすと、紫月とはたりと目が合った。涙で濡れた空色の瞳は、刹那の美しさを放っている。

 彼は歯がゆそうに、しかしどこか熱っぽい視線を向けてくると、私の顎に優しく手を当てて、顔を少し上向きにさせてきた。

 そしてそのまま、その非の打ちどころのない美麗な顔を、ゆっくりと近づけてくる。

 彼が何をしようとしているのかは、ぼんやりとした頭でも分かった。彼の妻になる気がないはずの私は、「ちょっと!」なんて言って、その行動を拒否しなければならない。

 でもその時の私に、そんな気力は無かった。いや、そんな気は起きなかった。

 ――むしろ、私は。


「……すまん、陽葵。つい、な」