「そっか……。そうだったんだね。俺、勘違いしていたみたいだ。もうふたりは俺のことなんて忘れてるんだって。……違ったんだね」

「……そうだよ。私、ふたりとお話したんだ。今でも拓斗くんのことを、大切に思っているよ」

「お父さん……お母さん……」


 拓斗くんは呟くようにそう言うと、私に向かって無邪気に微笑んだ。子供らしい、純粋な笑顔に見えた。――すると。


「ありがとう、お姉さん」


 拓斗くんの全身がゆっくりと、空へと登っていく。雲の隙間から、太陽の光が筋のようになって差し込んでいた。拓斗くんがその光の中に吸い込まれていく。小さな魂が、天に昇華していく光景だった。


「陽葵! 大丈夫か!」

「陽葵さま~!」


 紫月と、千代丸くん、琥珀くんが私に駆け寄ってくる。その光景を見た瞬間、深い安堵感が沸き起こってきた。

 ――よかった。お母さんのケーキのおかげで、なんとか拓斗くんを悪霊にせずに済んだみたいだ。

 一仕事終えて、息をついた私だったが。


「……あれ?」


 ぐらりと視界が歪んだ。突然全身の力が弛緩したかと思ったら、私の瞳は雲が浮かぶ空を映し出していた。

 ――あれ。私もしかして、倒れちゃってる?

 そう気づき、身を起こそうとするもやはり力が入らない。そんな私を、紫月が悲痛そうな顔をして上から見つめ、何やら叫んでいる。しかしその声ははっきりと頭に入ってこない。少し体が揺れている気がする。どうやら、彼に揺さぶられているみたいだ。

 ……と、思っていたらどんどん視界が黒ずんできた。あーあ、私、なんかやらかしたっぽいなあ……。