一縷の希望を見出し、私は手に持っているシフォンケーキに視線を落として言う。お母さんの愛がこもったレシピを再現したケーキ。きっとこれを食べさえすれば……!


「残念だが、望み薄だな……。心のほとんどが負の感情に蝕まれているようだ。こちらの声は聞こえないだろう。近寄ったら、こちらも怨霊として取り込まれてしまうかもしれない。――陽葵。言いづらいが、拓斗のことは諦めてく……」

「声が届かなくても、温もりと味は届けられるよ」


 紫月はきっと、私の身を案じてそう言ってくれているのだろう。だけどやっぱり諦めたくない私は、彼の言葉を遮るように強い口調でそう言った。

 紫月は怪訝そうな顔をする。


「陽葵?」

「拓斗くんは、ただ寂しいだけなんだよ。……分かるの。私もそうだったから」


 幼い頃、事故でいきなりお父さんとお母さんがいなくなって、世界で自分ひとりきりになった気がして。私はしばらくの間、この世のすべてに絶望し、泣きわめき、ひとり取り残された自分の運命を呪った。

 だけど、大叔父さんがそんな私を光のある世界に引き戻してくれた。彼が居なかったら、私は今頃どうなっていたんだろう。まったく想像ができないし、考えることすら恐ろしい。

 そして拓斗くんには、私にとって大叔父さんのような存在はいない。お父さんとお母さんも、事故現場には来なくなってしまった。

 そりゃ、寂しくて辛くて、悪霊になりたくもなるよ。

 ――でもね、拓斗くん。

 お父さんもお母さんも、あなたのことをまだ愛している。そんなに寂しがる必要なんて、ないんだよ。