――再現できたんだ。お墓で食べた、拓斗くんのお母さんが作ったシフォンケーキを。

 だけど、そんなことに浸っている場合じゃない。早く拓斗くんに、お母さんのシフォンケーキを食べさせてあげないと。お父さんもお母さんも、拓斗くんのことを忘れてなんかいないんだよと、彼に教えてあげないと。


「拓斗くん、どこにいるのかな? まずは探しに行かないと……!」


 そう言って、私が炊事場を飛び出そうとした……その時だった。


「紫月さま! 大変です!」


 突然炊事場の扉が開いたかと思ったら、うさぎ耳の従者が、血相を変えた様子でそう告げた。紫月は眉をひそめる。


「何事だ……?」

「境内に子供の霊が! 悪霊になりかけているようで……!」

「なんだと!?」


 紫月は顔色を変えた。状況的に考えて、悪霊になりかけている子供の霊なんて――拓斗くんしか考えられない。


「拓斗くん……! ど、どうしよう紫月。間に合わなかったの……?」


 お母さんの味のシフォンケーキが、やっと完成したというのに。このまま悲しい気持ちを抱えた状態で、拓斗くんは地獄へと連れて行かれてしまうの?


「くっ……」


 紫月は小さく呻くと、機敏な動作で炊事場から出た。私も完成したシフォンケーキを乗せたお皿を持って、慌てて後を追う。その後ろからは、千代丸くんと琥珀くんもついてきている気配があった。


「わっ」


 境内に一歩足を踏み入れた瞬間に紫月がいきなり足を止めたので、勢いあまって私は彼の背中に激突してしまう。ケーキを乗せた皿は、幸い無事ではあったが。


「紫月? ……!」