「一課は現時点、物取りで見ている」

物取り、所謂強盗殺人事件として扱うということだ。

「非常に一課らしいよ」

皮肉なのか、誉がふっと微笑んだ。

「御堂の集めた資料はすでに特捜本部の会議に出しているが、今の段階は怨恨ではなく強殺だ。特殊詐欺グループの主犯ということなら捜査方針も違ってくるんだが。村中警部にどうにか検討させるさ」
「せいぜいうまく使ってくれ。私の名前を出すと、警部殿が怒り出すからな。伏せることをお薦めするぞ」

誉はせせら笑う。陣馬が相変わらず感情の読めない顔で答えた。

「情報源を話さないわけにいかないだろう。村中さんも馬鹿じゃない。おまえの性格は忌み嫌っていても、頭脳と情報は疑わないはずだ」

巧はふたりの間に流れる独特な雰囲気に、息を飲んでいた。捜査一課の若手最強コンビだったと大西は言っていた。
そのふたりがひとつの事件で相見えている。情報を共有し合い、協力態勢を取っている。それが、周囲には睨まれるようなことでも、互いには自然なのだ。

「あ、あの!」

巧はようやく口を開いた。

「お茶とコーヒーはどちらがよろしいですか?」

今更ながら客人をもてなす態度を取ったのはなぜか。割り込むように口を開いてしまったことに自分でも驚いた。

「いや、いい。ありがとう。今日は捜査本部に戻る」

陣馬は固辞し、大西を伴い犯罪抑止係のオフィスを出て行こうとする。

「村中警部殿の舵取りじゃ、沈没はせんでも船は山に登るぞ。おまえがうまく誘導しろよ、陣馬」

誉が声をかけ、戸口で振り返った陣馬が答えた。

「だから、御堂を頼っている」

ふたりの絶対的な信頼関係を見て、なぜか打ちのめされたような気分になる巧だった。