「近隣の防犯カメラに、数人の通行人が映っていたが、逃げ去るような明らかな不審人物は映っていない。不審な駐車車両もない。今、個人宅の防犯カメラを集めているところだ」
「犯人が土地鑑のある人間なら、ある程度防犯カメラの数や位置を把握して、抜け道を作っていた可能性がある。ひと月以上前の防犯カメラ映像が残っていれば確認した方がいい。家の前やコンビニ前で、防犯カメラの位置や映る角度を計算している人物がいるかもしれない」
「個人宅だと望み薄だ。防犯会社との契約プランに寄っては、一週間程度で録画が消されてしまうことも多い」
「だな。しかし、やっておく価値はあるだろうよ」

ふたりのやりとりに大西がはいっと手をあげる。

「返り血を浴びているはずですし、徒歩での逃走は目立つのではないでしょうか?」

優等生の質問に、陣馬が答える。

「右頸部を前から後ろに向かってナイフで切り裂かれている。背後からの襲撃なら、角度的にほとんど返り血を浴びていない可能性もある」
「なるほど、勉強になります。そして犯人は右利きで間違いないですね」

大西がどこまでも優等生の回答をする。

「ナイフは被害者の私物か?」

朝の時点で巧は確認できなかったが、被害者の近くにナイフが落ちていたらしい。誉の問いに、陣馬が答えた。

「ああ。被害者は自身の持ち物で殺されている。父親が昔プレゼントしたサバイバルナイフだそうだ。財布と携帯は近くに落ちていた。財布から札とクレジットカードが抜かれていたな」

陣馬はふうと息をついて、誉を見つめた。