「御堂さん」

巧は悩みつつ、周囲の視線と今にもとびかかられそうなムードに、誉の行動をたしなめようと声をかけた。しかし、誉は新しい手袋を放ってよこし命じるのだ。

「階、遺体の背中を見たい。手伝え」
「こら! 御堂! 勝手に触るなと言っているだろうが!」
「いい加減にしろ! 役立たずの犯抑の分際で!」

いよいよ遺体から引きはがされるというタイミングで、後方がどやどやと騒がしくなった。初動捜査を担当する本庁の機動捜査隊と鑑識が到着したのだ。
こうなっては、さすがの誉も出張れない。ふたりは仕方なく遺体から退いた。

「御堂さん……どうでした?」

遺体から数メートル離れ、鑑識の仕事を眺めながら、巧は誉に尋ねる。

「防御創がない。未確認だが、背面に傷があると思う。背後から襲われうずくまったところ、首を切られて失血死」
「なぜですか?」
「人間、一撃で首を狙うのは難しい。それに首の傷の角度が正面からのものじゃない」

誉が遺体を見分したのは、ほんの一分ほどだ。それでここまでわかってしまうものなのだろうか。いや、まだ推測の域を出ないかもしれない。安易に彼女を信じるのはやめておこうと巧は思う。

すると、背後がいっそうざわついた。新たなパトカーのサイレン音が聞こえ、野次馬とそれを整理していた制服警官の壁が開く。
振り向いた巧の目には颯爽とこちらへ進んでくる男たちが五人。間違いない、警視庁捜査一課の到着だ。